朝吹真理子『きことわ』

どうしても、保坂和志の『カンバセイション・ピース』の世界に似ていると思ってしまう。違いは、過去の時間を主題の一つにしていることだ。『カンバセイション・ピース』の時間は、プロ野球横浜ベイスターズ)の今シーズンであり、そのシーズンのなかでドラマや成長がある。そしてやがて来シーズンが必ずやってくると思わせる。
『きことわ』は、繰り返される日常はすでに消滅した後、変わりゆく現実と記憶の断片を拾っている今の物語だ。
ただもう一つの主題と思われる、夢については、どういう表現をしたかったのかよくわからなかった。
最後、希望を感じさせる物語の終わり方だったので良かった。