ドラマ版『時をかける少女』

今回の主役は、何と言ってもNikon F3だった。

フィルムカメラは、写真の対象がそこにあった、という事実を化学的に未来永劫証明する。

それと、人生では一瞬に過ぎないひと夏の青春を対比させる。

変わるものと変わらないもの。

この作品は、リメイクされるたびに新しい価値を生む。そうか、こういうのを「古典」というんだろう。

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』

村上春樹のデビュー作以来登場する主人公「僕」が、現実世界を獲得する話。

ミステリー風にストーリーを牽引していくが、80年代当時の風俗描写も面白い。パソコンもスマホもなく、かろうじて留守電が連絡手段だった時代。作中に「トレンディ」という言葉がやたらに出てくるのが気になる。今この言葉を使うのは斎藤さんだけだ。

それでも卓越した文章だからだろう、小説全体に古くささは感じない。

上巻のストーリーや登場人物の個性は「神ってる」が、下巻で、あれ? と思う展開。今年のカープがこうならないことを祈る。エンディングは、大団円、と言うには弱い。CS出場権は得た、という感じか。

中森明夫『アナーキー・イン・ザ・JP』

青春漫画のような都合のいいストーリーだが、アナーキスト大杉栄とその周辺人物が現代に登場する展開が面白い。重きが置かれるのは大杉栄ではなく主人公の少年で、楽観的な欲望の肯定で一貫している。私たちはこの小説を読むとき、パンクロックを聞くときと同様、背後にあるセンチメンタリズムを感じなければ、ただのバカで終わる。そんな人は、時間が経てばつまらない大人になる。少なくとも私はそう思った。

この小説には、知識は半端なく盛り込まれている。しかし大事なのは、パンクを聞いた後、あるいはこの本を読んだ後、どんな行動をとるかだろう。行動に向かうエネルギーを喚起する力は十分にある小説だと思うが、世間では過少評価されていないだろうか。

ふと思ったが、漫画化されると大ヒットするんじゃないかな。

綿矢りさ『インストール』

文庫本で読む。なぜ今読んだのか、というと、高橋源一郎が激賞している文章を読んだからだが、なぜ今高橋源一郎を読んだのか、といわれるとよくわからない。
文系感覚溢れる比喩表現は上手いが、比喩を畳み掛ける時間帯は限定されている。ストーリーは青春小説の王道だ。そこにまったりとした自虐センスが加味される独特の世界。
十代の作品だから、一瞬のきらめきを感じさせるだけでも文学賞に値するのは間違いない。

猪木 vs アリ

40年前の異種格闘技戦。ノーカットでテレビ放送された。
当時私は見た覚えはないので、初めて試合を見た。
世紀の茶番という世間のイメージを覆す、スリリングな15Rだった。アリに有利なルールに従って戦えば、猪木もこのスタイルしかなかったんだろう。
もしグラウンドに寝転がるのが「ダウン」とみなされるルールだったら、猪木に勝ち目はなかった。ぎりぎりで成立した、ジャズの名演のような奇蹟だ。