安部公房『燃えつきた地図』

安部公房は不条理をテーマにした作家、というのが一般的なイメージだと思うが、私は、男と女の問題を描き続けた人じゃないかと推測する。カフカなどより吉行淳之介に近い。ただし主人公が決定的に魅力に乏しく、しょうもないことにこだわる、もてない男だが。つまり、「こじらせた異性への憧憬」がテーマだ。
この小説の主人公も、どう考えてももてない男だ。延々と細かい描写とか独白を続ける、めんどくさい性格の持ち主。失踪した人物を追ううち、自分が失踪者になるといっても、奥さんと別れ、興信所に転職した経歴がすでに失踪者的なんで、どんでん返しになっていないのでは...
小説を読んだ後、映画版を観た。
主人公が勝新太郎。どうしても男くささ溢れる、存在感のある興信所員になってしまう。最後のどんでん返しも、主人公が失踪者になるというより、描かれる猥雑な都会全体が失踪者に見えてしまう、勝新キャラの勝利=安部脚本の敗北? いやこれが狙いか。